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「せつなちゃん、大丈夫?」 「……う、うん、なんとか」 あれからしばらくして、ようやく立ち直ったせつな。 とはいえ、先ほどのやりとりを聞かれた恥ずかしさもあって 心配して声を掛けてきた祈里への返答もぎこちない。 「はい、これ、買ってきたお茶。これ飲んで落ち着いて」 「うん、ありがと、ブッキー」 祈里が差し出すペットボトルを受け取るせつな。 それを飲む前に、真っ赤に染まった自分の頬に当ててみる。 中のお茶に冷やされたペットボトルの冷たさが心地良い。 おかげで、火照った心が落ち着いたような気もする。 「全く、見られるのが嫌なら最初から人目につくところでいちゃつかないの!」 「……うう、そこは反省するわ」 「あたしは全然気にしないのになーっ!」 「ひゃあっ!」 ……気がしたのだが、ラブが横から抱きついてきたので体温心拍数共に再上昇。 「……ラ、ラブ、流石に二人が見てるんだし、こういうことは……」 「いーじゃんせつな、もう二人にも見られちゃったんだし、 むしろ遠慮する必要なくなったよね、わはーーっ!」 反省した手前、一応ラブを止めようとするせつなだったが、 既にラブの自制心という名のブレーキには欠陥が生じていたらしかった。 (もう、ラブったら、私は恥ずかしいからって言ってるのに……) そう思い、こうなったら美希か祈里に何とかしてもらおうと 二人に助けを求めようとしたせつなを襲う違和感。 ギュッ ラブの反対方向からも誰かに抱きつかれる感覚。 「なるほど、これがせつなの抱き心地なわけね」 「み、美希?!」 今しがた、助けを求めようとした本人である美希が、そこにいた。 「な、何してるの?」 「いやー、ラブがそこまでハマる抱きごごちってどんなもんかなーって、あたしも興味あって」 「興味持たなくていいわよ!」 せつなの抗議を美希は聞こえないフリ。 「んー、柔らかくて、暖かく、匂いもいい。 何よりも冷たいけどすべすべしてて、きめ細かいこのお肌の感触が……完璧ね!」 「さっすが美希タン、わかってるねーっ!」 勝手に論評まで始める始末である。 美希は普段どちらかというとラブを止める役に回ることが多いのだが 時々、二人揃って悪ノリに走ることもある。 この辺は幼馴染ならではの阿吽の呼吸のなせる技ではあるのだが。 標的にされるほうは溜まったものではない。 「ねえ、ラブちゃん、美希ちゃん」 救いの手は別の方向から来た。 そうだ、まだブッキーがいる。 ブッキーならラブ達を止めてくれるかもしれない。 期待を込めた視線を祈里に送るせつな。 今なら彼女の背中に天使の羽だって見えるかもしれない。 「せつなちゃんを抱きしめるのって、そんなに気持ち良いの?」 興味深々と言った表情を浮かべて聞く祈里の姿。 「……ブッキー」 天使の羽は、気のせいだったらしい。 「そりゃもう!すっごく気持ち良いんだよ!」 「だからブッキーも遠慮せずに、ほら」 そう言って怪しい笑みを浮かべ、祈里に向かってオイデオイデと手招きするラブと美希。 「そうなんだ……じゃあ私も」 それに応じるようにフラフラと近づいて来る祈里。 本で読んだ、幽霊が生者を手招きして仲間に入れようとする、という話を ふと思い出したせつなだったが、首を振ってそれを頭から追い出すと 目の前の現実をどうにかすることに集中する。 「ね、ねえブッキー、お願いだから、止めてくれない?」 しかしそんなせつなの懇願も、祈里には届かない。 「せつなちゃん……ごめんね、私も、やってみたいの……えいっ」 そう言いながら祈里が狙い定めた場所は、せつなの腿の上。 そこに頭を載せながら、ゴロンと寝る姿勢。 「あら、膝枕とは、やるわね、ブッキー」 「ああっブッキーずるい!それあたしもやったことない!」 「えへへ……ここしか空いてなかったから……」 そう言ってペロっと舌を出してみせる祈里。 「はあ……確かにせつなちゃんの匂い、良い匂い……」 「でしょでしょ、あたしはいつでもせつなの匂いで幸せゲットだよっ!」 「これはハマるわね、今度こういうアロマ作ってみようかしら」 最早三者三様に好き放題やり放題の有様。 「あのね……三人とも、本当に、もう許して……」 このままではいけない。 また恥ずかしさで、頭がショートしてしまう。 そう思い、精一杯頑張って訴えてみるせつなだったが 「「「だーーーーーーーーーーーめっ!」」」 笑顔と共に即効で却下された。 「ねえねえブッキー、あたしの後であたしの場所と交換しよ?」 「ダメよラブ、あなたはいつもせつなと一緒なんだからちょっとは遠慮しなさい、 次代わるのはあたしよ」 「ええーーっ、美希タンそれはずるいよっ!あたしもせつなに膝枕されたいっ!」 「ゴメンね二人とも、私ここが一番好きだから……今日はダメ」 「「ええーーーーっ!ブッキーずるいっ!!」」 「三人とも、いい加減にしてーーーーーーーーーーーーーっ!」 せつなにとっての試練の時間はまだまだ始まったばかりのようだ。 それから数刻の後。 せつなと、それを囲む三人の姿。 しかし、そこには先ほどまでの喧騒はない。 聞こえてくるのは三つの規則正しい呼吸音。 ラブ、美希、祈里の三人がそれぞれの姿勢でせつなに抱きついたまま、すう、すうと立てている寝息の音だ。 あの後、それぞれ思い思いにせつなを堪能した後、いつの間にか寝入っていたのだ。 (全くもう……) 唯一その音を出していないのは、中心にいるせつな。 三人を起こしてしまわないように、心の中で呟く。 (……すっごく恥ずかしかったんだからね) しかし言葉とは裏腹に、せつなの顔には柔和な笑み。 それは多分、三人のことを感じられているから。 ラブの、美希の、祈里の、体の柔らかさ、暖かさ、匂い、 そしてその中にある、せつなのことを思う、優しさ。 それらを感じることが出来ているような気がするから。 (……だから、すっごく幸せな気分、かな?) そう思うせつなもだんだんと微睡みの中。 自分を包む三つの幸せに身を委ねたまま、意識を手放していくのだった。 「お嬢ちゃん達、おっまたせ~すっかり遅くなっちゃってゴメンよ~ なんせ久々の新作だけに、芯をサクっとさせるのが大変だったんだよね ドーナツに芯はないけど、グハッ!」 やっと出来上がったドーナツを持ってカオルちゃんが丘にあらわれたのは、それから更に後。 紙袋を片手に4人のところまでやってきたのだが。 「あらら……みんな寝てらあ」 そこには、穏やかな、安心しきった表情で寝息を立てているせつなと そのせつなを左右から抱きしめるラブと、美希と、腿を枕にする祈里と せつなを中心に、思い思いの姿勢で眠る少女達の姿があった。 「ま、いーや、ドーナツ、ここに置いとくよ」 そう小声で言うと、紙袋を置いて、立ち去ろうとするカオルちゃん。 しかしその途中でふと何か思いついたように立ち止まり、四人の方を振り返る。 「お嬢ちゃん達、そうしているとまるでさ……四つ葉のクローバーみたいだねえ」 誰に言うとでもなく、そう呟く。 そんな彼のサングラスの奥に、優しい光が湛えられていたのは一瞬で。 「……いっけねえ、オジさんつい臭いこと言っちゃったよ。 まあ、オジさんの靴下はもっと臭いけどね、グハッ!」 いつものカオルちゃんに戻ると、丘を去っていった。 四つ葉町の町外れにある小高い丘の上。 一面にシロツメクサが咲き乱れる草原に、今はすっかり人気はなく。 あるのはただ、幸せのもと。 寄り添うようにして眠る、四つ葉のクローバーの化身だけ。
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お風呂あがりのラブから切り出された話を聞いて、 思わず私は吹き出してしまった。 「どうしたの、お母さん?」 「...ううん、何でもないわ」 「変なの...」 ラブから相談されたのは、 ピーマンがおいしく食べられる、 料理の作り方。 ふたりで、色々と考える。 硬くて苦い感じをやわらげるため、 だし醤油で炒め煮にすることにした。 「せっちゃんは知ってるの?」 「ううん。まだ...」 「じゃぁ、明日の夕ご飯で、それ作りましょ」 「うん!あたし、頑張るよ!」 ラブがお風呂に入っている時に、 せっちゃんがやって来た。 相談されたのは、人参がおいしく 食べられる、料理の作り方。 ふたりで、色々と考える。 味が良く出る豚肉を使って、 ポトフ風に煮込むことにした。 小さめの乱切りにして、味をよく 染みこませよう。 「ラブは知ってるの?」 「いえ、まだ...」 「じゃぁ、明日の夕ご飯で、それ作りましょ」 「ええ!私、精一杯頑張ります!」 お互いの思いに、心が温かくなる。 一緒に暮らして欲しい。 あんなに真剣な目をした ラブを、見たことがなかった。 クローバーの丘で初めて見た、 彼女の顔に浮かんでいたもの。 戸惑いと、何かに対する自責。 彼女に、幸せを感じて欲しい。 彼女に、愛を感じて欲しい。 レストランで、はしゃいでいる ラブから、痛いほどに伝わる思い。 幸せになっては いけない気がする。 そう言っていた、彼女。 何があったのかは、知らない。 知る必要もない。 私も、彼女を包んであげよう。 そう決めた。 娘が1人、増えたと思って やってきた。 使う部屋が、増えた。 ご飯の材料も、4人分。 歯ブラシも、4つ。 お父さんのおみやげも、 4等分。 徐々に増えていく、 彼女の笑顔。 いつしか、4人で居ることが 当たり前になった。 そして。 陽が差し込む居間で 初めて聞いた言葉。 言葉と一緒に届く、 あふれるほどの思い。 やってきたことは 間違いじゃなかった。 「ん...?」 「あれっ...?」 ふたりが、同時に声を上げた。 「苦くないし、食べやすいわ...」 「いろんな味がしみてて、 ちょっとおいしいかも...」 狙い通りの味になった。 お互いへの思いが、 味となって染みている。 「ふたりとも同じ相談するんだもの、 びっくりしちゃったわ」 「もう、お母さんってば、 黙ってるんだから...」 「ごめんね。でも、ふたりの気持ちが 何だか嬉しくて...」 ふたりが、照れたような顔をして 下を向く。 「さぁ、どっちが早く克服できるかな?」 「よーし、せつな、もっと色々作って 絶対好きにさせるからね!」 「私も、負けないわ!」 勢いよく食べるふたりは まるで双子のよう。 胸を張って言える。 私には、自慢の娘が、ふたり。
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小さな歩幅で、小走りする。 途中で、止まってしまう。 落とすように放ったボールが、 よろよろと進む。 勢いはすぐに消え、 横に転がる。 溝を転がっていくボールに背を向け、 ブッキーが苦笑いで戻ってくる。 「なかなか、うまくいかないな...」 ラブも、美希も 微妙な表情。 「うーん、もうちょっと強く投げるといいと思うよ...」 「そうそう。まっすぐね...」 「うん...」 もう一投。 腕だけ、無理して振っている。 ボールが、今度は反対側の溝を よろよろと滑っていく。 スコアボードの「G」の横に 「-」が光った。 「わたし、センス無いなぁ...」 ブッキーが、肩を落として 戻ってくる。 美希が、続いて投げる。 ピンが倒れる、高い音。 「すごーい!美希たんダブルだよ!」 「すごいね、美希ちゃん」 ハイタッチするブッキーも、笑顔。 無理して作った笑顔は、 すぐにわかる。 笑顔になれることを 教えてもらった。 一歩、前に進む 勇気をくれた。 こっそり練習したダンスは、 私に合わせて、踊ってくれた。 今度は、私の番。 席を立ち、 ブッキーのそばに行く。 「ブッキー」 「はいっ」 ブッキーが弾かれたように 顔を上げる。 ごめん。 ちょっと強い調子に 聞こえちゃったかな。 「ちょっと来て」 手を引き、ボール置き場の 後ろに行く。 「ずっと見てたんだけど、 足の運び方だと思うの」 ブッキーの後ろに回り、 手を取る。 脇を締めて、 ボールを構えて。 左足から、踏み出して。 1歩目で、腕を伸ばして ボールを前に出すの。 2歩目で、力を抜いて ボールを下に。 3歩目で、反動を使って ボールを後ろに。 4歩目で、体を少し下に沈めて。 5歩目をぐっと前につき出して、 ボールを押し出すの。 「いっしょに、やってみて」 「うん...」 1,2,3,4,5。 1,2,3,4,5。 「せつなー、投げる番だよー」 「ごめん、私とブッキー、スキップお願い」 1,2,3,4,5。 1,2,3,4,5。 ゆっくり、何度も何度も 繰り返す。 1,2,3,4,5。 1,2,3,4,5。 ぎこちなかった動きが、 だんだん私と合ってくる。 どれくらい、 続けただろうか。 フォームが、固まってきた。 「やってみましょ」 「うん」 フロアに戻る。 ゲームのスキップを解除し、 ブッキーを促す。 構えたまま、じっと 前を見ている。 後ろから、声をかける。 「大丈夫、いけるわ!」 ブッキーがうなずく。 1,2。 ボールを前に出し、下げて。 3,4。 ボールを後ろで、ためる。 5。 ぐっと踏み込む。 ためた反動で、ボールが前に すっと押し出された。 スピードは無いが、 まっすぐ、転がっていく。 「あっ!」 「えっ?」 ラブと美希の、驚いた 声が聞こえる。 ヘッドピンの、少し横に当たる。 ピンが、パタパタと倒れる。 残り、1本が ぐらぐらと揺れている。 「お願い...!」 ピンの揺れが大きくなり、 パタリと、倒れた。 「STRIKE!」 画面に映し出される。 「きゃーっ!!!」 4人とも、信じられないような声を出して 飛び上がってしまった。 「完璧ね!ブッキー!」 「すごいよブッキー!ストライクだよ!」 みんなとハイタッチを交わした後、 私の手を取って、ぴょんぴょん跳ねている。 「わたし、初めて!初めて!」 大きい瞳をさらに開いて、 こぼれ落ちそうな笑顔。 「ありがとう!せつなちゃん!」 ぎゅっと握られた手から、 どれほど嬉しいか、伝わってくる。 少し前までは、決して 味わうことのなかった感覚。 むずがゆいような、 暖かいような、 とっても、嬉しい感覚。 「よーし、あたしも負けないぞー!」 全力で投げたラブのボールが 勢いよく溝を転がっていく。 「うわ、すごい速度」 美希が、顔を覆う。 その仕草がおかしくて、 ブッキーと、声を上げて笑った。 私の番が回ってきた。 レーンに向かう。 ブッキーの笑顔を思い出し、 クスッと笑った。 「どうしたの?」 「...ううん、ちょっとね」 幸せなの。 つぶやいた声が、 聞こえたかどうか、わからない。 にんまりしながら、私は 自分の赤いボールを手に取った。
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んじゃ俺も投下。 ぶきせつで被ってしまったスマソ 「せつな、ブッキーが今日どこに行くかとか聞いてた?」 ラブが私の部屋に入ってきた。 「ううん、別に聞いてないよ」 「そっか...まだ帰っていないってブッキーの家から電話あったから...」 時計を見る。夜11時をとうに回っている。 「携帯も出ないし...何もないといいけど...おやすみ」 ぶつぶつ言いながらラブは自分の部屋に戻った。 読みかけの本に目を戻すが、何か胸騒ぎがする。 ブッキーとは、ダンス合宿でお互いを知ってからは よく一緒に図書館や買い物に行っていたが、いつも 夜8時には家に戻るように予定を組んでいた。 そのうち胸騒ぎは嫌な予感になり、本の内容も 頭に入らなくなってきた。 服を着替え、アカルンを呼び出す。 「キィ」 いつも陽気な声で出てくるアカルンも、私の気持ちを 察したのか、真面目な表情をしている。 「ブッキーの居るところへ」 赤い光が私を包んだ。 27 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 30 28 ID 66tdVY2Y 光が消えると、そこは閑散とした路地だった。 四つ葉町にこんな場所は無い。 周りを見渡すより前に、声が聞こえた。 「やめてください...離してください...」 聞き覚えのある声が小さく聞こえる。 それをかき消すかのように、男達の声が聞こえる。 「あきらめろよ。ここまできたら叫んでも声聞こえないし」 「つかマジでおっぱい大きいよなぁ。俺にも触らせろよ」 「まてよ俺が終わってから!先にこいつ狩ろうって言ったの俺だし」 声の方を向くと、ブッキーに男3人が覆い被さっていた。 ブラウスは半分破られ、下着が見えている。 色々と触られているが、まだ最悪の事態には至っていないようだ。 ブッキーの表情は絶望と悲しみでで覆い尽くされている。 嫌な予感が的中した。 28 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 31 44 ID 66tdVY2Y 「ブッキー!」 大声を出してブッキーに走り寄る。 「...せつなちゃん...?」 「なんだよお嬢ちゃん。お友達かい?」 「おほっ、こりゃまたおいしそうなカラダしてんねぇ」 男達が私の方に寄ってくる。 ブッキーの表情がみるみる変わり、涙があふれている。 助けてって言うんでしょ。言うまでもないわ。そのために来たんだもの。 ところが、次に出てきた彼女の言葉は私の予想とは 違っていた。 「せつなちゃん!逃げて!はやく逃げて!」 「ブッキー...」 この期に及んでも、友達を逃がそうとするブッキーが たまらなく愛おしい。 それと同時に、男達に対する黒い憎悪が心を覆い尽くす。 29 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 34 13 ID 66tdVY2Y 私は立ち止まり、男達を睨み付けた。 全身に殺気をみなぎらせる。こんな感覚は久しぶりだ。 まだ私はこんな感覚を持てるのか。 いや、今までとは少し違う。 全ての人を不幸にするためにこの感情を持っているのではなく、 大事な人を守るため...大事な人を傷つけた奴に対する憎悪。 「ねぇ、一緒に遊ぼうよぉ」 胸に伸びてきた左端の男の手首を内側にひねる。 男は浮き上がるように反転し、簡単に腕を極められた。 「あうぅぅぅぅおぉぉ」 情けない声を出す男だ。股間を蹴り上げる。 声もなくその男はのたうち回る。 「てめぇっ」 残り2人の男が色めきだつ。 30 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 35 45 ID 66tdVY2Y 正面の男を睨み付ける。 男の目に怯えが走る。 勝負は既に決しているようだ。 こいつは生きるか死ぬかの闘いを経験していない。 「調子こいてんじゃねぇぞ!」 怯えを隠すかのように、正面の男が殴りかかってくる。 まるでスローモーションを見ているかのように遅い。 顔の動きだけで拳を避け、軸足を払う。 男は簡単に転がった。 ふいに後ろから腕を捕まれた。 もう1人の男が後ろに回っていた。 反射的に体をひねり、肘を飛ばす。 無意識だった。 31 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 38 50 ID 66tdVY2Y ラビリンスの兵士訓練は苛烈を極めた。 総統メビウス直下の兵になるには、戦術はもとより 実戦の能力が重視される。 選抜試験は実戦形式の競技ではなく、実戦だった。 容赦なくお互いの急所を狙う。 それで使い物にならなくなった兵は、弾よけの歩兵になるか クラインに命を止められるだけだった。 それに、勝ち抜いてきた。 容赦なく相手の急所を打ち抜いてきた癖は今も抜けず、 格闘になると無意識に急所を狙ってしまう。 飛ばした肘が男のこめかみに吸い込まれる。 しまった、と思った。ここは殺し合いをする場所ではない。 しかし、体をひねった際に男がバランスを崩したらしく、 私の肘は急所をかろうじて外した場所に当たった。 それでも男は棒のように倒れ、白目をむいていた。 32 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 44 07 ID 66tdVY2Y 「この野郎...」 足を払って転倒した男が立ち上がり、ナイフを取り出した。 「せつなちゃん!!危ない!!」 ブッキーが叫ぶ。 ブッキーの悲痛な叫びとは裏腹に、 私は口元をほころばせてしまった。 構えと目を見ればわかる。 ナイフと打撃の組み合わせは、よほど訓練された 兵士でないと併用できない。 ナイフですべて片付くと思ってしまうのだ。 つまり、ナイフだけ見てれば良い。 「おらああああああああ!」 声は勇ましいが、ナイフが止まっているようなスピードだ。 やけっぱちで振り回しているだけだ。 ナイフを持った腕が伸びきったところで、手首に掌底を入れる。 簡単にナイフが落ちた。 体の回転を生かして、そのまま回し蹴りを入れる。 きれいに首に入った。声もなく男は倒れた。 33 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 47 31 ID 66tdVY2Y ブッキーの元に駆け寄る。 「ブッキー、大丈夫?」 「せつなちゃん...ありがとう...もうだめかと思った...」 ブッキーの大きな目から涙が止めどなく流れ、私の胸に 飛び込んできた。 「さ、早く行こう」 私はTシャツの上に着ていた襟付きのシャツを ブッキーに着せ、足早にその場を離れた。 何本か通りを過ぎると、大通りに出た。 隣町のようだ。 「ブッキー、どうしてあんなところに居たの?」 「獣医学の専門書を頼まれて、買いに来たの。 そしたら帰りがけに突然囲まれちゃって...」 よほど怖かったのだろう、ブッキーは私の腕に しがみついたままだ。 「せつなちゃん...強いね」 「えっ...まぁ...ラビリンスでやらされてたから」 「ありがとう...せつなちゃん」 ブッキーが私にさらに密着してくる。 意外に大きなブッキーの胸が腕に押し当てられている。 34 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 48 04 ID 66tdVY2Y 「あ、連絡しておかなきゃ」 ブッキーがリンクルンを開けて電話をかけ始めた。 「あ、ラブちゃん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、 せつなちゃんに助けてもらったの。これから戻るね。」 「あ、美希ちゃん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、 せつなちゃんに助けてもらったの。これから戻るね。」 「あ、お母さん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、 せつなちゃんに助けてもらったの。終電なくなっちゃったから タクシーで戻るね。」 ブッキーがリンクルンを閉じた。 「ねえブッキー、私アカルンがあるからすぐ戻れるよ?」 「うん、知ってるよ」 「えっ...」 ブッキーが私の腕にぎゅっとしがみつく。 「ホントに怖かったから...忘れさせて欲しいの」 「...」 私はこれから起こり得ることを想像して、 体の奥底が熱くなるのを感じた。 以上終わり。 続きは思いついたら書きます。 何か表現が某ハードボイルド小説のパクリに なってしまったorz
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「あ」 「ん?あ、ごめんなさい。これ美希のね」 苦笑して彼女はあたしのコップをテーブルに戻した。あたしの声に一度は中断された会話が、なぁんだという微笑とともに快活な少女によって再開される。あたしも笑顔を作り、会話に戻る。ドクドクと高鳴る心臓に気づかないフリをして、彼女が置いたコップを握る手を微かに震わせながら。 炭酸ジュース一つと、カフェオレ一つとオレンジ二つ。パラソル付きのテーブルでドーナツを囲むように置かれた飲み物。 頼まれた飲み物を人数分買ってきた幼なじみは、あたしに飲み物を手渡すとき首を傾げた。その目は珍しいねとでも言っているようだった。 ありがとうと言ってそれを受け取り、思ったよりも渇いていた喉を潤す。甘さの中にすっきりとした酸味。嫌いではないが、随分と飲んでいなかった気がする。 そしてあたしの隣にはもう一つのオレンジジュースがコトンと置かれた。 全ては仕組まれた事故だ。 ポーカーフェイスには自信があったはずなのに、自分で仕掛けたものにああも反応してしまうのは想定外だった。 今がいいだろうか 自然なタイミングで もう誰も気にしていないだろう 「せつな、ドーナツついてる」 「わっ、ラブ。もう……ありがとう」 トーン低めの黄色い髪の少女、桃園ラブがテーブルを挟んで漆黒の髪色の少女東せつなに手を伸ばし、その頬についたドーナツのかけらを取り口に入れた。 持ち上げようとしたコップをあたしはもう少しで倒してしまうところだった。 からん、からん あたしはストローをコップの中で上下させる。 作戦は成功したのに、結果を喜ぶことができない。自分はこんなに惨めなことをする意気地なしだっただろうか。 間接キスを仕組みながらそのストローに口をつけることさえできなくなった。 友人の話は頭から流れ、ただ悪戯に、氷がとけていく。 「―――よねっ美希たん?」 「えっ?」 不意に話しかけられハッと声のした方を見る。声をかけたラブだけではなく、せつなと祈里も訝しげにあたしを見ていた。 「大丈夫?」 「うん。ごめん、何だっけ」 「明日の合宿。せっかく海の近くだし、海で遊びたいねって」 「え、ええうん。泳ぎたいわね」 「でしょ?こっそり水着持ってこうかなー」 話についていけたことにほっと息をつき、喉を潤すため自然にストローに口をつけた。 意識をし過ぎているのかもしれない。違うことに意識が移り、気にしなければこうして普段通りになる。 「気にしてるのかと思った」 その時、小さな声でせつなが話しかけてきた。反射的にあたしも小さな声で何を?と返す。 「飲み物飲まないから。潔癖?って言うんだっけ。それだったら悪いことしちゃったなぁって」 意味に気づくとかぁっと体温が上昇するのがわかった。彼女が自分を見ていたことに急に恥ずかしくなる。そして、余計な心配をかけたことを反省する。 「ごめん。何か今日ぼーっとしてて。あたしは仲のいい友達なら平気よ」 あと、潔癖はあんまりよく受け取られないわよとあたしらしくお小言。せつなはごめんねと微笑んだ。 罠を仕組んだことを心の中で詫びつつ、あたしの心は彼女の笑顔で少しずつ晴れていく。 「もしかしたら苺チョコ取ったから怒ってるかなとも思ったし」 これは嘘。からかうようにせつなは自分の食べかけのドーナツを指差す。 あたしの一番好きな苺ソースの乗った甘くないチョコ生地にチップ入りのドーナツ。売れ行きがよかったらしく今日は一つしか残っていなかった。 「あたしはそんな子供じゃないわよ」 彼女にも食べて貰いたくて薦めたドーナツ。今は残りが三分の一ほどだ。 「美味しいでしょ?」 「ええ、でも……」 次の瞬間あたしの口内にふわりと甘さが広がった。せつなはしてやったりの顔をしている。 「いつもクールなのにこれを食べた時の、美希の緩んだ顔は見物よね」 甘くてほろ苦いドーナツ。 あたしは一口大だったそれをゆっくり咀嚼もせずに飲み込んだ。 高鳴った心臓は当分正常な働きをしてくれないだろうとどこか遠いところで考えながら。 END
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わたしと美希ちゃんは二人に別れを告げると、いつもの帰路へ歩を進める。 「今日はどうなる事かと思ったわよ。」 「あのノーザってゆう人、わたし……怖い…」 ラビリンスから送られてきた最高幹部、ノーザ。 わたしたちはふと、不安に襲われる。 けれども、何度もその不安や恐怖からわたしたちは這い上がってきた。 自分たちの可能性。わたしたちの役目。希望は捨てちゃいけない。 ―――私、信じてる――― 「ねぇブッキー。これからちょっと寄り道しない?」 「えっ?」 「アタシの読者モデルの最新号、実は家に届いてるの!」 「ほんと!?でもね…」 「ん?用事あるの?」 「実は……」 美希ちゃんのお母さんにお願いして、こっそり届けてもらってたり。驚かそうと思って。 だからほんとは今日、誘うのはわたしの方な訳で。。。 「ママったら呆れちゃう…。なーんにも言わないんだもん。」 「そりゃそうだよ…。内緒にしといてってお願いしたんだもん。」 さっきまでの戦いの事や、不安や恐怖なんて美希ちゃんと居れば どこかに飛んでっちゃう。 わたしたちの調子も元に戻ってきたようで。自分の心があったかくなるのがわかった。 たまには、ラブちゃんやせつなちゃんみたいな関係に便乗したいなって……。 「おじゃましまーす」 「何か持ってこようか?」 「ううん。それより、早く見せてよ!ってアタシが言うのも変だけどね。」 すっかり読者モデルとして活躍してる美希ちゃん。それを見るのがわたしの楽しみ。 普通なら憧れちゃうんだけど、美希ちゃんはすぐ手の届く……。 ――――大切な人 「この洋服、秋用にしてはちょっと派手すぎてアタシは嫌だったんだ。」 「そなの?とっても似合ってるけど?」 「わかってないわねー。」 「うーん…」 「アタシが着たかったのはき・い・ろ。」 「黄色?」 「ほら、次のページ」 開かれたページには、鮮やかに着飾れた黄色の美希ちゃんが。 「わぁ~。とっても似合う!」 「でしょ!大好きな人のイメージカラーよ。それも秋とバッチリ!アタシ、完璧!!!」 嬉しくて。思わず、わたしは美希ちゃんに抱きついちゃって。 あ、ラブちゃんだったら覆い被さっての方が正しいかも…。 「ちょ、ちょっとブッキー。」 ビックリする美希ちゃん。でも、わたしは笑っているだけ。 「もう、なんなの?笑ってばかりで。変よブッキー。」 と言葉にするも、わたしを見つめる美希ちゃんの瞳はうっとりしていて。 なにをするわけでも、話すわけでもなく、体を寄せ合う2人。 しばらくして、どちらかが一方の名前を呼ぶ。 しかし、眠っている事に気付いて、優しく微笑み、自分も再び体を預けて目を閉じる。 ガチャ 「祈里ー、もうすぐご飯………。くすくす…、仲がいいのね二人とも。」 2人の幸せそうな寝顔を見て、そっと毛布をかけてくれたお母さん。 後々、話を聞いたらちょっと恥ずかしくて。 秋はわたしの季節。 山吹色はわたしたちの心をあったかくしてくれる。 「今度は人の少ない時間だけにするから…」 「いきなりなんだもんブッキー。勘弁してよね!」 「でもラブちゃんとせつなちゃんだって…」 「ま、負けてられないわね!」 ~END~
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せつなも学校に通うと言う事は、当然こんな展開もあるよな? ♀「あのっ東先輩っ!これ受け取って下さい!」 せ「?これは…手紙?」 ♀「ら、ラブレターです……///」 せ「!!!(ラブからの手紙ですって…!?)」 せ「ありがとう!」 せ「(何て書いてあるのかしら…wktk)」 『好きです。付き合ってください』 せ「きゅあああああああん(萌)!!!!!」
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するりと暗闇に飲み込まれる様に意識が途切れる。 ぽっかりと浮かび上がる様に暗闇から意識が吐き出される。 眠りとはそう言うものだとずっと思ってきた。 訓練、任務、分刻みに決まりきった日常。鉛の様に重くなった体ごと 意識が泥沼に沈んで行く、ただ脳と身体から疲労を追い出す為の作業の 一つに過ぎなかった、深く、短く、暗い眠り。 中途半端に浅い眠りはいつだって碌なものじゃなかった。 悪夢は目覚めても、現実はその続きでしかなく、多少なりともマシな夢は、 目覚めた後に砂を噛む様な不快感を、渇いた口に張り付かせるだけだから。 だから、夢など見ないよう、精一杯体を痛め付ける。 毎日、毎日、他には何も考えずに済むように。 目を閉じれば、一瞬で闇が次の朝まで連れて行ってくれるように。 … ………… …………………… 「あ、ごめん。起こしちゃった?」 目覚めると、ふわふわした明るい色の髪が顔のすぐ横で揺れていた。 せつなの手を握ったり、自分の手のひらと重ねて大きさ比べをしたりして、 ラブが遊んでいる。 「せつなの手、ちっちゃくてカワイイ」 「…大きさなんて殆ど変わらないじゃない」 ラブの柔らかな指で手を弄ばれる。 温かな血の通った感触。また眠りに誘われそうだった。 その温かく柔らかな手が頬を撫で、額に触れて来る。 手をどけた後は、コツンと自分の額をくっつける。 「うん、熱は下がったね」 よかったよかった。そう、微笑むラブにせつなは苦笑いを返す。 手のひらで熱を見たなら、わざわざ額までくっつける必要は無いだろうに。 「ずっと一緒に寝てたの?駄目じゃない、移るわよ」 そう言うと、ラブは少し驚いた様に目を見開くと、思い切り抱き付いて ぐりぐりと頬を擦り寄せる。 「こらこら…」 「だってぇ、せつなホカホカで気持ち良かったんだもん」 「もう。私はカイロ代わり?」 「ウソウソ!いいじゃん、風邪でも一緒に寝たいんだもん!」 「…だから、移ったら困るでしょ?」 「移ったっていいよーだ!」 だって、そしたらせつなが看病してくれるでしょ? 「…移しっこしてどうするのよ?」 「いいじゃん!幸せゲットだよ?!」 眠っている間、何か夢を見ていた。熱のせいか、あまり良い夢では無かった気がする。よく思い出せない。 けれど、そんな事はどうでもよかった。 悪夢なんて、目覚めてしまえばそれでお仕舞い。 幸せな夢も、目覚めた後で辛くはならない。 今は現実の方がずっと豊かな彩りに溢れているから。 もうどんな夢も恐くない。目が覚めればあなたがいてくれる。 「…朝食、私が作ろうかな」 「駄目!」 「どして?」 「病み上がりって言葉知らないの?今日一日は熱がなくてもお利口にね」 「はぁい…」 温もりに包まれていると、また眠気に誘われて来た。 微睡み出したせつなを見て、ラブは優しく囁く。 「もう少し寝てなよ。朝ごはん、出来たら起こすから」 「…………ん………」 ラブの短い言葉も聞き終わらない内に、とろとろと意識が揺らめきだす。 愛しい温もりが側にあれば、眠る事はこんなにも甘やかなものなのだ。 ラブはせつなが完全に眠りに落ちるのを見計らい、そっとベッドを抜け出す。 起こさぬ様に、頬と唇を軽く啄んでから。 せつなが、夢の中でも幸せでありますように。 そして、目覚めた後はもっと幸せでありますように。 end
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学校からの帰り、私は一人で歩いていた。 いつもはラブと一緒に帰るのだけど、今日は一人。 昨日、今となってはつまらない喧嘩をして、今朝も別々に登校して、 学校でも席は隣というのに、昨日の夜から一言も口をきいていない。 突然、遠雷がしたと思ったら、空が真っ暗になり、大粒の雨が降り出した。 朝の天気予報では降水確率が低かったから、傘は持ってきていない。 空を見上げると、雨はだんだん激しくなり、すぐに晴れそうにもない。 家まではそう遠くではないけど、今の状態で走って帰れば、 服はおろか鞄の中身まで、びしょ濡れになってしまうだろう。 近くに、シャッターが下りたお店があって、軒が深いから雨宿りに適している。 閉店して今は誰も住んでいないから、気兼ねすることもない。 びしょびしょに濡れながら走って、その場所まで辿りつくと、先客がいた。 ラブは私の姿に気付くと、顔を背けて私の方を見ないようにしている。 私はラブのいる反対側の端の、雨に濡れないぎりぎりの所に立った。 会話は全くなく、非常に気まずい。 ラブが何か話してくれれば、私も話すのに。 何か話そうと言葉を頭に浮かべても、宙に消えていく。 雨足はますます強くなって、しばらく止みそうもない。 その上、遠くに聞こえていた雷がこちらに近づいてきたらしく、 ピカッと稲光が走った後、大きな雷鳴が響く。 光と音の間隔が短いから、かなり近くで落雷があったみたいだ。 ラブの方を見ると、軒先の真ん中にしゃがみ込み、頭を押さえている。 雷の音がする度、ラブの身体が慄く。 「雷が怖い?」 私の顔を見てからかっていないと分かったのだろう。 ラブが「うん」と小さく頷いて返事をした。 「じゃあ、私が手を繋いであげる」 手を差し出すと、ラブが私の手を握ってくる。 ラブの手は震えていて、私も握り返した。震えが止まるように。 どのくらいそうしていたのか。 気がつくと、日差しが戻り、雨足が弱まっていた。 「雨、上がったね」 「うん、上がった」 雨が止んで、もう雷の心配もないのだけど、どちらも繋いだ手を解こうとはせず。 「家に帰ろっか」 「うん」 私達は手を繋ぎながら、雨だまりが出来た道を歩き出した。 了
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2月14日はそう、〝バレンタインデー〟で御座いました。 BVさん、JIBさん、恵千果さん、由美っちさん、磐丸さん、十和さん、職体さん改めSLさん、 一路さん、生駒さん、黒ブキさん、SABIさん、ご参加頂き本当にありがとう御座いました! 僭越ながら保管屋も投下致しました。 職人で無い方も投下していただき、本当にありがとう御座いました。 専用カテゴリーに保管してあります。 クローバーのバレンタインは甘いのか、苦いのか?読むか読まないかは貴方次第w